社会保険料控除とは、1年間に支払った社会保険料の全額を所得から差し引ける所得控除の一種です。
社会保険料控除を受けるには、会社員の場合、主に年末調整で手続きを行います。
この手続きを正しく行うことで、所得税や住民税の負担を軽減できます。
この記事では、社会保険料控除と年末調整の書き方について、対象となる保険料の範囲や家族分の取り扱いも含めてわかりやすく解説します。
社会保険料控除を受けるためのポイントを押さえ、確実に節税につなげましょう。
社会保険料控除とは?所得税・住民税が安くなる仕組みを解説
社会保険料控除とは、所得控除の一つであり、納税者が支払った健康保険料や年金保険料などの社会保険料の合計額を、その年の所得から差し引くことができる制度です。
所得税や住民税は、所得金額を基に計算されるため、社会保険料控除を適用して課税対象となる所得を減らすことで、結果的に税金の負担が軽くなるメリットがあります。
計算方法は非常にシンプルで、生命保険料控除などとは異なり上限額はなく、その年に支払った社会保険料の全額が控除の対象となるため、大きな節税効果が期待できます。
社会保険料控除の対象になる保険料一覧
社会保険料控除の対象となる保険料には、法律の規定に基づき徴収される様々な種類があります。
会社員が給与から天引きされるものだけでなく、個人で納付した保険料や、生計を共にする家族のために支払った保険料も含まれます。
例えば、75歳以上の人が支払う後期高齢者医療保険料も対象となります。
どのような保険の種類が控除の対象になるか、その内容を一覧で把握しておくことで、申告漏れを防ぐことができます。
租税条約の規定により、特定の社会保険料に相当するものも対象になる場合があります。
給与から天引きされる健康保険料や厚生年金保険料
会社員や公務員、社会保険の加入要件を満たすアルバイトの場合、毎月の給与や賞与から健康保険料や厚生年金保険料が天引きされています。
この給与天引き分は「特別徴収」と呼ばれ、本人が支払った社会保険料として扱われるため、社会保険料控除の対象です。
通常、この天引き分については会社が金額を把握しているため、年末調整の際に従業員自身が申告書に記入する必要はありません。
会社側で自動的に計算され、控除が適用されます。
年金受給者が年金から天引きされる介護保険料なども同様です。
自身で納付した国民年金保険料・国民健康保険料
個人事業主やフリーランス、または退職して一時的に無職の期間がある人などが、自身で納付した国民年金保険料や国民健康保険料も社会保険料控除の対象になります。
これらは給与から天引きされないため、年末調整や確定申告の際に自己申告が必要です。
市区町村の窓口や金融機関で納付書を使って支払った金額、または口座振替で引き落とされた金額の合計額を申告します。
申告を忘れると控除を受けられないため、1年間に支払った総額を証明する書類や領収書を保管しておくことが重要です。
40歳から支払う介護保険料
40歳になると加入が義務付けられている介護保険の保険料も、社会保険料控除の対象です。
40歳から64歳までの人は、加入している健康保険の保険料と一体的に徴収されます。
給与所得者の場合は健康保険料と一緒に給与から天引きされるため、特に意識することなく控除が適用されています。
一方、65歳以上の人は、原則として受給する年金から天引きされる形で介護保険料を納付し、その金額が社会保険料控除の対象に含まれます。
自身で納付した場合は、その金額を申告する必要があります。
労働者のための雇用保険料
会社員などが給与から天引きされている雇用保険料も、社会保険料控除の対象です。
雇用保険と労災保険を合わせたものを労働保険と呼びますが、このうち労災保険の保険料は全額を事業主が負担するため、労働者の負担はありません。
労働者が負担するのは雇用保険料のみであり、給与や賞与の総額に定められた保険料率を乗じて計算され、天引きされます。
この天引きされた雇用保険料の年間合計額が、健康保険料などと同様に社会保険料控除として扱われ、所得から差し引かれます。
国民年金基金やiDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金
国民年金基金の掛金やiDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金は、社会保険料控除ではなく「小規模企業共済等掛金控除」という別の所得控除の対象となります。
社会保険料控除と同様に、支払った掛金の全額が所得から控除されるため、高い節税効果が期待できます。
年末調整や確定申告で控除を受ける際には、社会保険料控除の欄ではなく、小規模企業共済等掛金控除の欄に記入する必要があるため注意が必要です。
NISAやふるさと納税、住宅ローン控除、基礎控除など、他の控除制度との違いを正しく理解しておきましょう。
▶ 関連記事
個人事業主 税金|種類・計算方法から節税対策と注意点まで解説
扶養していない家族の社会保険料も控除対象になるケース
社会保険料控除の大きな特徴は、納税者本人の保険料だけでなく、「生計を一にする」配偶者やその他の親族の社会保険料を支払った場合にも、その支払額を自身の控除対象にできる点です。
ここで重要なのは、税法上の扶養親族である必要はないということです。
例えば、所得があって扶養者ではない配偶者や、アルバイト収入がある子供の国民年金保険料を代わりに支払った場合でも、支払った人の所得から控除できます。
この範囲を理解しておくことで、控除額を増やせる可能性があります。
子供の国民年金保険料を親が支払った場合
20歳以上になると学生でも国民年金への加入義務がありますが、収入が少ない子供に代わって親が国民年金保険料を支払うケースは少なくありません。
この場合、支払った保険料の全額を、支払った親自身の社会保険料控除として申告することが可能です。
子供と生計を一にしていることが条件となりますが、同居していなくても、仕送りなどで生活を支えている実態があれば認められます。
年末調整や確定申告で忘れずに手続きすることで、親の税負担を軽減できます。
配偶者の国民健康保険料を代わりに支払った場合
パート収入などがある配偶者の国民健康保険料や国民年金保険料を、もう一方の配偶者が支払った場合、その支払額は支払った側の社会保険料控除の対象にできます。
保険料の納付義務者が誰であるかは問われず、実際に負担した人が控除を受けられる仕組みです。
これは、配偶者の所得が一定額を超えていて配偶者控除や配偶者特別控除の対象にならない場合でも適用可能です。
家計全体で保険料をどのように支払うかを検討する際に、この点を考慮するとよいでしょう。
控除の条件となる「生計を一にする」の具体的な範囲
「生計を一にする」という要件は、社会保険料控除を家族分に適用する上で非常に重要です。
これは必ずしも同居していることを意味しません。
例えば、子供が大学進学のために一人暮らしをしていたり、親が老人ホームに入居していたりする場合でも、生活費や学費、療養費などを常に送金している事実があれば「生計を一にする」と認められます。
この条件を満たすかどうかで控除の可否が決まるため、自身の状況が当てはまるかどうかの判断が大切になり、節税額に影響します。
【記入例あり】年末調整での社会保険料控除の書き方
年末調整で社会保険料控除を受けるには、「給与所得者の保険料控除申告書」に必要事項を記入し、会社に提出します。
給与から天引きされている社会保険料については会社が把握しているため記入不要ですが、自身で支払った国民年金保険料や、生計を共にする家族の社会保険料を支払った場合は、この申告書への記入が必須です。
記入例を参考にしながら正しく記載することで、控除漏れを防ぎます。
会社員で給与天引き以外の社会保険料を支払った人は、確定申告ではなく年末調整で手続きを完了させましょう。
STEP1:給与所得者の保険料控除申告書を用意する
年末調整の手続きを始めるにあたり、まず勤務先から配布される「給与所得者の保険料控除申告書」という書類を用意します。
この書類は、社会保険料控除のほか、生命保険料控除や地震保険料控除など、各種保険料に関する控除を申告するために必要なものです。
通常、10月下旬から11月頃に他の年末調整関連の書類と一緒に配布されます。
この申告書が、給与から天引きされている分以外の社会保険料について控除を受けるための第一歩となる必要書類です。
STEP2:給与天引き分以外の支払額を記入する
申告書の「社会保険料控除」の欄に、給与天引き分以外で自身が支払った社会保険料の詳細を記入します。
具体的には、「社会保険の種類」の欄に「国民年金」や「国民健康保険」といった保険の名称を、「保険料支払先の名称」には市区町村名などを記載します。
そして、その年に支払った保険料の合計額を「本年中に支払った保険料の額」の欄に入力します。
家族の分を支払った場合は、保険料の負担者である家族の氏名と続柄も追加で記入する必要があります。
STEP3:控除証明書を添付して会社に提出する
国民年金保険料や国民年金基金の掛金を支払った場合、その支払いを証明する「控除証明書」を申告書に添付して会社に提出する必要があります。
この証明書は、日本年金機構などから毎年10月下旬以降に郵送で届きます。
国民健康保険料については、控除証明書の添付は法律で義務付けられていませんが、支払額を確認するために自治体から送付される納付済通知書などを手元に保管しておくと良いでしょう。
これらの手続きを完了させ、会社の指定する期限までに提出します。
年の途中で転職した場合の申告方法
年の途中で転職した場合は、現職の会社で年末調整を行う際に、前職分も含めて1年間の社会保険料を申告する必要があります。
前職の給与から天引きされた社会保険料の額は、退職時に受け取る「源泉徴収票」に記載されています。
現職の会社にこの源泉徴収票を提出することで、前職分と現職分の社会保険料が合算されて控除が計算されます。
また、退職から再就職までの期間に国民年金などを自身で支払った場合は、その分も忘れずに申告書に記入してください。
給与天引き分しか支払っていない場合は記入不要
1年間に支払った社会保険料が、すべて勤務先の給与から天引きされたもののみである場合は、「給与所得者の保険料控除申告書」の社会保険料控除欄に記入する必要はありません。
給与から天引きされた健康保険料や厚生年金保険料などの金額は、会社側が正確に把握し、年末調整の計算に自動的に反映させるためです。
自分で国民年金保険料を納付したり、家族の保険料を負担したりといったことがなければ、特に手続きをしなくても社会保険料控除を受けられます。
申告に必要な社会保険料控除証明書とは?
社会保険料控除証明書とは、国民年金保険料や国民年金基金の掛金を支払ったことを証明する書類です。
年末調整や確定申告でこれらの保険料について社会保険料控除を受ける際に、支払いの事実を証明するために申告書への添付が義務付けられています。
この証明書がないと控除を受けられない可能性があるため、非常に重要な書類です。
一方で、国民健康保険料など、添付が不要な社会保険料もありますが、支払額の確認のために領収書や納付通知書は保管しておくと安心です。
▶ 関連記事
確定申告とは?誰がいつまでに?やり方を初心者向けにわかりやすく
控除証明書が手元に届く時期はいつ?
国民年金保険料の控除証明書は、日本年金機構から毎年10月下旬から11月上旬にかけて、その年の1月1日から9月30日までに納付した実績に基づいて送付されます。
10月1日から12月31日までにその年初めて納付した人には、翌年の2月上旬に送付されます。
年末調整の時期に合わせて送られてくるため、届いたら紛失しないように保管しましょう。
納付状況に変更があった場合など、送付時期がずれることもあるため、届かない場合は早めに確認が必要です。
添付が必要なのは国民年金保険料などを自分で納付した場合
年末調整の際に控除証明書の添付が必須となるのは、主に国民年金保険料と国民年金基金の掛金を自分で納付した場合です。
これらは、支払った事実と金額を客観的に証明するために、公的機関が発行する証明書の提出が求められます。
一方で、給与から天引きされている健康保険料や厚生年金保険料については、会社が支払いを証明できるため添付は不要です。
また、自分で納付する国民健康保険料や介護保険料についても、法令上、証明書の添付は義務付けられていません。
紛失した際の再発行手続き(ねんきんネット・窓口)
社会保険料控除証明書を紛失してしまった場合は、再発行の手続きが可能です。
日本年金機構が運営する「ねんきんネット」を利用すれば、24時間いつでもパソコンやスマートフォンから再発行の申請ができます。
また、最寄りの年金事務所や街角の年金相談センターの窓口に直接出向いて手続きすることも、電話で再発行を依頼することも可能です。
ただし、郵送で届くまでには数日から1週間程度かかることがあるため、年末調整の提出期限に間に合うよう、紛失に気づいたら速やかに手続きを行いましょう。
マイナポータル連携で電子データ提出も可能に
近年、行政手続きのデジタル化が進み、社会保険料控除証明書も電子データで受け取れるようになっています。
マイナポータルと「ねんきんネット」を連携させることで、控除証明書の電子データをダウンロードできます。
この電子データを年末調整の際に会社に提出したり、確定申告で利用したりすることで、紙の証明書の添付が不要になります。
これにより、書類の保管や提出の手間が省け、手続きがスムーズに進むというメリットがあります。
社会保険料控除の節税効果はいくら?計算方法を紹介
社会保険料控除による節税額は、以下の計算式で算出できます。
「年間に支払った社会保険料の合計額×(所得税の税率+住民税の税率)」が目安です。
住民税の税率は原則10%ですが、所得税の税率は課税される総所得金額に応じて5%から45%まで変動します。
つまり、年収が高く所得税率が高い人ほど、社会保険料控除による節税効果は大きくなります。
正確な節税額を知るには、自身の源泉徴収票などで総所得金額等を確認し、対応する所得税率を把握する必要があります。
支払った保険料の「全額」が所得から控除される
社会保険料控除の最も大きな特徴は、その年に支払った保険料の「全額」が所得から控除される点にあります。
他の多くの所得控除には上限額が設けられていますが、社会保険料控除にはそれがありません。
そのため、支払った保険料の金額が多いか少ないかにかかわらず、その全額を課税対象となる所得金額から差し引くことができます。
これにより、所得を効果的に圧縮し、税負担を直接的に軽減することが可能になります。
所得税・住民税がいくら安くなるかのシミュレーション
例えば、課税所得300万円(所得税率10%)の人が、年間で50万円の社会保険料を支払った場合を考えます。
節税額は、所得税が50万円×10%=5万円、住民税が50万円×10%=5万円となり、合計で10万円の税金が安くなります。
また、年間20万円の国民年金保険料を支払った場合、所得税率が5%の人なら、所得税1万円(20万円×5%)と住民税2万円(20万円×10%)の合計3万円が軽減されます。
年収500万円の人であれば、より高い税率が適用されるため節税効果はさらに大きくなります。
生命保険料控除と違って上限額がないのが大きな特徴
社会保険料控除とよく比較される生命保険料控除には、控除額に上限が設けられています。
新制度の場合、生命保険、介護医療保険、個人年金保険のそれぞれで最大4万円、合計で所得税の控除額は最大12万円です。
これに対して、社会保険料控除には上限額という概念がありません。
したがって、1年間に支払った社会保険料の金額がどれだけ高額になっても、その全額を所得から差し引くことが可能です。
この点が、他の所得控除制度との大きな違いであり、最大のメリットと言えます。
社会保険料控除に関するよくある質問
社会保険料控除の手続きを進める上で、具体的なケースについて疑問が生じることがあります。
例えば、共働き夫婦の場合の控除の適用関係や、年の途中で退職した際の手続き方法、過去の未納分を支払った場合の取り扱いなど、様々な状況が考えられます。
ここでは、その他の親族に関する控除の例を含め、社会保険料控除について特に多く寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q. 妻の給与から天引きされた社会保険料は、夫の控除対象にできますか?
できません。
社会保険料控除は、実際に保険料を支払った本人が適用を受けるのが原則です。
妻の給与から天引きされた社会保険料は、妻自身が支払ったものとみなされるため、夫の年末調整で控除の対象にすることは不可能です。
これは、夫婦が生計を一にしている場合でも同様です。
▶ 関連記事
無申告とは?税金のペナルティ・今からできる対処法を税理士が解説
Q. 年の途中で退職した場合、社会保険料控除はどうなりますか?
年末調整を受けずに退職した場合、自身で確定申告を行うことで社会保険料控除を適用します。
在職中に給与天引きされた保険料と、退職後に自分で納付した国民健康保険料などを合算して申告できます。
前職の会社から交付される源泉徴収票で、天引きされた金額を確認しましょう。
Q. 過去に未納だった国民年金を支払った場合、控除の対象になりますか?
対象になります。
過去の未納分を追納した場合や、将来の保険料を前払いした場合、その保険料は実際に支払った年の社会保険料控除として申告できます。
対象となる期間が何年前のものであるかに関わらず、その年に支払った合計額が控除の対象です。
まとめ
社会保険料控除は、年末調整や確定申告で手続きをすることで、所得税や住民税の負担を軽減できる制度です。
給与から天引きされる公的年金や健康保険料だけでなく、自身で納付した国民年金、後期高齢者医療保険料や、生計を一にする家族の分も対象となる場合があります。
控除漏れがないよう、1年間の支払額を確認し、必要な証明書類を準備して会社の定める期限内に正しく申告することが重要です。


