「税金を一括で払うと、事業資金が足りなくなる」
「納税したいけれど、今まとめて支払うのは難しい」
このようなときに利用できる可能性がある制度が、換価の猶予です。
一定の要件を満たして申請すると、国税を原則1年以内で分割して納付しながら、差し押さえられた財産の換価(売却など)を待ってもらえる場合があります。
まず押さえておきたい4つのポイント
- 換価の猶予は、税金そのものが免除される制度ではない
- 差し押さえを受ける前でも申請できる
- 申請による換価の猶予は、原則として納期限から6か月以内に申請する
- 猶予が認められると、原則1年以内で分割して納付する
なお、確定申告の期限を過ぎている場合の手続きと、税金を一括で払えない場合の納税相談は別の問題です。申告そのものが終わっていない場合は、まず申告を行う必要があります。
換価の猶予とは?税金を分割して納付できる可能性がある制度
換価の猶予とは、国税を一度に納付すると事業の継続や生活の維持が難しくなるおそれがある場合に、一定の要件を満たすことで国税の徴収を猶予してもらえる制度です。
ここでいう「換価」とは、差し押さえた財産を売却したり、差し押さえた債権を取り立てたりして、滞納している税金に充てることをいいます。
簡単にいうと
「今すぐ一括で払うと事業や生活が立ち行かないので、財産をすぐ売却せず、現実的な金額で分割して納税させてほしい」と申請する制度です。
個人事業主の場合は、所得税だけでなく消費税や源泉所得税など複数の国税が関係することがあります。年間の税金を整理したい方は、個人事業主の税金の種類・納税時期もあわせて確認してください。
差し押さえを受けていなくても申請できる
「換価の猶予」という名前から、すでに自宅や預金などを差し押さえられた人だけが利用できる制度だと思われることがあります。
しかし、申請時点で財産を差し押さえられている必要はありません。
一括納付すると事業の継続や生活の維持が困難になるおそれがあるなど、所定の要件を満たしていれば申請できます。
注意
換価の猶予が認められても、すでに行われている差し押さえが自動的に解除されるわけではありません。また、制度上、新たな差し押さえが一切できなくなるわけでもありません。
申請による換価の猶予と職権による換価の猶予がある
換価の猶予には、大きく分けて次の2種類があります。
| 種類 | 概要 |
|---|---|
| 申請による換価の猶予 | 納税者が自ら申請して審査を受ける制度 |
| 職権による換価の猶予 | 納税者の状況などを踏まえ、税務署長が職権で行う制度 |
この記事では、利用者自身が手続きを行う「申請による換価の猶予」を中心に解説します。
【比較表】換価の猶予と納税の猶予の違い
税金を一括で納付できない場合の制度として、「換価の猶予」とよく比較されるのが「納税の猶予」です。
どちらも国税の納付を猶予する制度ですが、利用できる状況が異なります。
| 比較項目 | 換価の猶予 | 納税の猶予 |
|---|---|---|
| 主な利用場面 | 一括納付すると事業継続・生活維持が困難になる場合 | 災害・盗難・病気・事業の休廃止・著しい損失など一定の事情がある場合 |
| 申請期限 | 原則、納期限から6か月以内 | 適用する制度・事情によって異なる |
| 差し押さえ済みである必要 | なし | なし |
| 猶予期間 | 原則1年以内 | 原則1年以内 |
| 延滞税 | 猶予期間に対応する延滞税の一部が原則免除 | 適用理由などに応じて全部または一部が免除される場合がある |
| 担保 | 原則必要。ただし例外あり | 原則必要。ただし例外あり |
どちらを自由に選べるわけではありません
納税の猶予は、災害・病気・事業の休廃止・著しい損失などの要件に該当する必要があります。また、同じ国税について現に納税の猶予を受けている場合、その国税について申請による換価の猶予を重ねて受けることはできません。
換価の猶予が認められるとどうなる?3つのメリット
MERIT 01
原則1年以内で分割納付できる
換価の猶予が認められる期間は原則1年以内です。財産や収支の状況を踏まえ、国税を完納できると認められる最も早い期間が設定され、原則として各月に分割して納付します。
MERIT 02
差し押さえられた財産の換価が猶予される
換価の猶予期間中は、原則として猶予対象となった国税について差し押さえている財産を換価できません。事業用財産などをすぐに売却されることを避けながら、納税を進められる可能性があります。
MERIT 03
延滞税の負担が軽減される
換価の猶予が認められると、原則として猶予期間に対応する延滞税の一部が免除されます。一定の事情がある場合には、さらに免除されるケースもあります。
本税が減るわけではありません
換価の猶予によって軽減されるのは主に延滞税です。所得税・消費税など、本来納付すべき税金そのものが減額される制度ではありません。
換価の猶予を受けるための5つの要件
国税庁の「猶予の申請の手引」では、申請による換価の猶予について、次の5つの要件が示されています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① | 一括納付すると事業の継続または生活の維持が困難になるおそれがある |
| ② | 納税について誠実な意思がある |
| ③ | 猶予を受けようとする国税以外の国税に、原則として滞納がない |
| ④ | 納期限から6か月以内に換価の猶予申請書を提出する |
| ⑤ | 原則として猶予額に相当する担保を提供する |
① 一括納付すると事業や生活の維持が難しくなる
「一括で払いたくない」という理由だけでは換価の猶予は認められません。
国税を一度に納付すると、事業に必要な運転資金が不足して事業継続が難しくなる、または必要最低限の生活費が確保できなくなるおそれがあることが必要です。
② 納税について誠実な意思がある
換価の猶予は、税金を払わずに放置するための制度ではありません。
財産や収支の状況を正確に申告し、猶予後は分割納付計画に従って国税を優先的に納めていく意思が求められます。
③ 原則として他の国税に滞納がない
原則として、換価の猶予を申請する国税以外に、納期限を過ぎた国税が残っていないことが必要です。
複数の国税を滞納している場合は、自分で判断して一部だけを申請するのではなく、現在の納税状況をまとめて税務署の徴収担当へ伝えましょう。
④ 納期限から6か月以内に申請する
申請による換価の猶予を利用する場合は、猶予を受けようとする国税の納期限から6か月以内に換価の猶予申請書を提出する必要があります。
6か月ぎりぎりまで待たない方がよい理由
延滞税は納期限の翌日から発生します。換価の猶予を申請しても、原則として申請日前の期間まで遡って延滞税が軽減されるわけではありません。納税が難しいと分かった段階で早めに相談・申請することが重要です。
⑤ 原則として担保を提供する
換価の猶予を受ける場合は、原則として猶予を受ける金額に相当する担保を提供します。
ただし、次の場合は担保を提供する必要はありません。
- 猶予を受ける金額が100万円以下の場合
- 猶予を受ける期間が3か月以内の場合
- 担保として提供できる財産がないなど、特別な事情がある場合
換価の猶予の申請に必要な書類
必要となる主な添付書類は、猶予を受けようとする金額が100万円以下か、100万円を超えるかによって変わります。
| 猶予金額 | 主な必要書類 |
|---|---|
| 100万円以下 |
・換価の猶予申請書 ・財産収支状況書 ・担保提供に関する書類(必要な場合) |
| 100万円超 |
・換価の猶予申請書 ・財産目録 ・収支の明細書 ・担保提供に関する書類(必要な場合) |
申請書に記載した財産や収支の内容について、税務署から帳簿、預金通帳、売上資料などの確認を求められる場合もあります。
換価の猶予申請書で記入する主な内容
換価の猶予申請書では、主に次のような内容を記載します。
- 住所・氏名または名称
- 猶予を受けようとする国税の税目・納期限・税額
- 国税を一度に納付できない事情
- 猶予を受けようとする期間
- 毎月の分割納付額
- 担保に関する事項
特に重要なのは、「なぜ一括で払えないのか」と「毎月いくらなら納税できるのか」です。
希望だけを書くのではなく、預貯金、売上、事業経費、生活費などと整合する現実的な分割納付計画を作成します。
換価の猶予を申請する流れ
税務署の徴収担当へ相談する
税金を一括で納付することが難しいと分かった段階で、現在の資金状況や納付可能額を税務署へ相談します。
申請書と必要書類を準備する
猶予額に応じて、財産収支状況書または財産目録・収支の明細書などを作成します。
税務署またはe-Taxで申請する
換価の猶予申請書は、書面による持参・送付のほか、e-Taxでも提出できます。
税務署の審査を受ける
申請書や添付書類をもとに、財産状況・収支・納付計画・猶予要件などが確認されます。必要に応じて追加資料を求められる場合があります。
許可後は分割納付計画どおりに納税する
許可された場合は「換価の猶予許可通知書」が送付されます。通知された分割納付計画に従って納付します。
換価の猶予はe-Taxでも申請できる
換価の猶予申請書は、e-Taxによる電子申請に対応しています。
e-Taxでは、換価の猶予申請書のほか、財産収支状況書、財産目録、収支の明細書なども手続対象となっています。
書面でも提出できます
e-Taxを利用しない場合は、申請書を書面で作成し、徴収を担当する税務署または国税局へ持参・送付して提出できます。
納期限から6か月を過ぎた場合はどうする?
申請による換価の猶予は、原則として納期限から6か月以内に申請する必要があります。
そのため、6か月を過ぎた場合には、通常の「申請による換価の猶予」の申請期限を過ぎていることになります。
6か月を過ぎても放置しないでください
申請期限を過ぎた場合でも、状況によっては職権による換価の猶予や納税の猶予など、別の対応が検討される場合があります。「もう申請できない」と自己判断せず、税務署の徴収担当へ早めに相談しましょう。
確定申告をしていない場合は、換価の猶予だけでは解決しない
換価の猶予は、すでに納付すべき国税がある場合の「納税方法」に関する制度です。
そのため、過去の確定申告そのものをしていない場合は、換価の猶予を利用するだけでは問題は解決しません。
まず必要な申告を行い、納付すべき税額を確定させたうえで、一括納付が難しい場合に猶予制度などを検討します。
申告していない年がある場合は、無申告だったらどうする?今からできる対処法も確認してください。
換価の猶予に関するよくある質問
Q. 差し押さえられる前でも換価の猶予を申請できますか?
はい。差し押さえを受けていることは申請要件ではありません。一括納付によって事業継続や生活維持が困難になるなど、所定の要件を満たしていれば申請できます。
Q. すでに差し押さえられていても申請できますか?
申請期限などの要件を満たしていれば申請できます。ただし、換価の猶予が認められても、既存の差し押さえが自動的に解除されるわけではありません。
Q. 納期限から6か月を過ぎたら換価の猶予は利用できませんか?
申請による換価の猶予は原則として6か月以内の申請が必要です。ただし、状況によって職権による換価の猶予などが検討される場合があるため、税務署へ相談してください。
Q. 担保がなくても換価の猶予を申請できますか?
はい。猶予額が100万円以下、猶予期間が3か月以内、担保として提供できる財産がないなどの一定の場合には、担保提供は不要です。
Q. 換価の猶予はe-Taxで申請できますか?
はい。換価の猶予申請書はe-Taxで提出できます。財産収支状況書などの関連帳票もe-Taxの手続対象です。
Q. 換価の猶予は何年受けられますか?
原則として1年以内です。やむを得ない理由により期間内に完納できない場合は、当初の期間と合わせて最長2年以内まで延長が認められることがあります。
Q. 黒字でも換価の猶予を受けられますか?
黒字であることだけを理由に対象外になるわけではありません。利益が出ていても、預金残高や売掛金の回収時期などから、一括納付によって事業継続が困難になる場合があります。
Q. 換価の猶予を申請すれば税金そのものが減りますか?
本税そのものは減りません。猶予期間中も分割して本税を納付します。一方、猶予期間に対応する延滞税については一定の軽減があります。
まとめ|税金を一括で払えないと分かったら早めに相談する
換価の猶予は、国税を一度に納付すると事業継続や生活維持が難しくなる場合に、一定の要件を満たすことで分割納付や財産の換価の猶予を受けられる制度です。
申請による換価の猶予には、原則として納期限から6か月以内という期限があります。
ただし、延滞税は納期限の翌日から発生するため、6か月ぎりぎりまで待つメリットはありません。
「今まとめて払うと資金がなくなる」「分割でなければ納付が難しい」と分かった時点で、早めに対応することが大切です。
税金や確定申告について基礎から確認したい方は、タクバツの税金ガイドもご覧ください。
確定申告を丸投げしたいならタクバツへ
参考:国税庁・e-Taxの公式情報
本記事は2026年8月15日時点の法令および国税庁・e-Tax公表情報をもとに作成しています。換価の猶予が認められるかどうかは、財産・収支・納税状況などによって個別に判断されます。実際に申請する場合は、徴収を担当する税務署または国税局へご確認ください。


